ミュージカル『マリー・アントワネット』を観に大阪梅田まで遠征してきました。
この度約2年ぶりの再演となりますね。意外と上演ペース早かったなぁという印象。
未だに新型コロナ禍の影響は色濃いわけですが、大阪はピーク時よりも落ち着いてきたということで緊急事態宣言が解除されたばかりの時でした。私が見た限りではけっこう町には人手も多く出ている印象が強かったですが、コロナ前に比べると全然静かです。なので、あまり危険を感じるようなこともなかったかな。
劇場での感染対策も相変わらずかなり綿密に行っていました。入口で検温・消毒という流れはもうスタンダードになったかなぁ。ただチケットの切り離しは今回はスタッフさんが行っていました。以前までは見せた後に自分で切るスタイルだったんですが、そのあたりは多少緩和してきたのかも?
客入りは1階席でだいたい7割くらい(2階席はよく見えなかったけど、前方以外は空いてたような…)。前回ドラマシティに『パレード』を観に行ったときには5割ちょいという印象だったので予想外に多かったなぁという印象。
あと、舞台上の飛沫を避けるためからかここ最近のミュージカルはオケピが前方に配置されることが多くなった気がします。一昔前はそれがスタンダードでしたから、その頃に戻った感じですかね。
本当はWキャストの全制覇をリベンジしたい気持ちもあったのですが(前回公演では万里生くんが大阪来れなくて見れなかったんだよなぁ)、今回はちょっとその気持ちを抑えて1回きりの観劇ということにしました。選択ポイントはお初キャスト。甲斐くんのフェルセンと川口さんのエベールを軸に考えた結果、大阪初日公演となりました。
以下、ネタバレを含んだ感想になります。
2021.03.02マチネ公演 in 梅田芸術劇場(大阪)
主なキャスト
- マリー・アントワネット:花總まり
- マルグリット・アルノー:昆夏美
- ルイ16世:原田優一
- フェルセン伯爵:甲斐翔真
- レオナール:駒田一
- ローズ・ベルタン:彩吹真央
- ジャック・エベール:川口竜也
- ランバル公爵夫人:彩乃かなみ
- オルレアン公:小野田龍之介
今回のアンサンブルさんもベテラン揃いで安定していました。
一番目が行くのはやっぱりロベスピエール役の青山航士さんでしたね。特に2幕後半の裁判シーンでの存在感は圧巻です!あの眼力と圧力で迫られたら誰だって竦んじゃうよ~…ってレベルで見ていてゾクゾクしました。
それからダントン役は原慎一郎くん!前回はこの役を引退してしまった杉山有大くんが演じていたのですが、原くんのどっしりとした鋭い眼光の雰囲気も実にハマっていてカッコよかったです。ディズニー映画『アナ雪』でクリストフを演じて歌番組にも出演した経験もありますし、なかなかの高身長イケメンなので(四季にいたときから注目してました)今後もっと活躍してほしいなぁと思ってます。
あと、中山昇さんのロアン大司教も”厭らしさ”が前面に出ていて(いい意味でw)面白かったです。聖職者にあるまじき雰囲気がプンプンしてて、あれじゃマリー・アントワネットに毛嫌いされても仕方ないなと納得ww。
それとロアン大司教にねっとり迫ってたラモット夫人役の家塚敦子さんも面白かった!嫌味でプライドが高くちょい下品なところが特に面白かった(褒めてますよw)。
あらすじと概要(雑感)については前公演の記事を参照してください↓。
過去の『マリー・アントワネット』(MA)感想はこちら↓
全体感想
前回観劇した時には12-3年ぶりの「MA」だったことから色々と比較しながら違いを見つける見方をするところが多かったのですが、今回は素直に物語に集中して観れたかなと思います。
けっこう早めに入手した席だったのでかなりの前方席ではあったのですが、ただ、サイドのキワに近かったせいか見切れるシーンもちょいちょいw。
冒頭のフェルセンのナンバーの時は甲斐くんの片手しか見えてない時間帯が長かったりww、冒頭のパリ・ロワイヤルのシーンではキャストさんとアントワネットがちょうど丸かぶりになったりw。一番あちゃーと思ったのが、クライマックスの大きな見せ場と言っていい倒れたアントワネットにマルグリットが手を差し伸べるシーンでアントワネットの姿がほとんど見えなかったことですかね(苦笑)。
こういうの、前方席サイドあるあるかとは思うんですが…(苦笑)近くに見えるのはいいんだけど見切れが多いことを考えるとやっぱりちょい後ろの真ん中よりのほうがいいかなって思ってしまった。とりあえず今回は初見モノではなかったので個人的には「まぁ、仕方ない」と諦めついたんですけどw。
ウィーンミュージカルの巨匠・クンツェ&リーヴァイが手がけた楽曲はやはりどれも珠玉の名曲揃いです。エリザを彷彿とさせるようなものもあるし、M!とテイストが似たものもあるので、これ系の作品が好きな人には比較的耳に馴染みやすいナンバーが揃っていると思います(どこかで聞いたことあるような旋律って思うところもけっこうありますけどねw)。
1幕と2幕でドラマチックに大勢のキャストを並べて歌い上げるといったスタイルはベタなんだけど、やっぱりグランドミュージカルならではな豪華さを実感できて心が踊ります。2007年の初演の時、ストーリー的には微妙と感じたものの結局リピート観劇してしまったのはこの音楽があったからと言っても過言ではないので(笑)やはり私はクンツェ&リーヴァイのコンビの音楽が基本的に好みということなんじゃないかなと(合わなかった作品もありますけどねw)。
あと今回改めて楽曲について思ったのが、メロディーラインがすごく難解なナンバーが多いということ。オケの複雑な音楽に合わせて歌い上げるものばかりで、改めて出演者の皆さんすごいなぁと感動してしまった。
さて、2年前に観たときも思いましたが、やはり主人公をマルグリットからマリー・アントワネットに大きく寄せたことで作品的にとても分かりやすくなったなという印象が強かったです。アントワネットの人物像により深く厚みを持って迫っているシーンが多いので、彼女の気持ちの機微がストレートに伝わってきて感情移入できる点も増えました。
一番印象深いのはアントワネットとフェルセンの悲恋ですかねぇ。違う出会い方をしていたら普通の恋人同士でいられたかもしれないのにと思えて仕方のないエピソードが次々出てくる(汗)。
少女のようにフェルセンへの恋愛をひたすら求めていくアントワネットに対し、フェルセンはそれを受け止めようとしつつも「もっと外の世界にも目を向けるべきだ」と心を鬼にして忠告。大人になり切れないアントワネットの危うさをフェルセンは常に心配していて、なんとか彼女の意識を変えようと必死になるんですよね。
♪遠い稲妻♪のシーン、美しい風景をフェルセンと愛を語りながら眺めるつもりだったアントワネットに「現実の世界をもっと見て!大人になるんだ!!」と必死に訴えながら歌うフェルセンが切なかった…。特に最後の「あなたには届かないのか!?」という歌詞が刺さります。
フェルセンが去ってしまった後アントワネットはうまくいかない二人の関係を嘆くように♪孤独のドレス♪を歌うのですが、結局彼女は「外の世界」には興味がなくてフェルセンとの恋愛のことで頭がいっぱい状態でしかない。この彼女の無知と幼さが後々の悲劇へと繋がってしまうと思うと何とももどかしい気持ちにさせられました。
そしてあの「首飾り事件」が起こってしまうわけで、ここでもさらにアントワネットは自らの幼さを露呈。一言も言葉を交わさない誓いすら立てるほど憎悪していたロアン大司教を主犯格として訴えるという過ちを犯してしまった(ロアンはマルグリットたちに騙されて巻き込まれただけだった)。
そんな彼女に訴えを取り消すよう強く進言したフェルセンでしたが、それをどうしても受け入れられないアントワネット。彼は自分の味方になって一緒に戦ってくれると思い込んでいたために大きなショックを受けてしまうわけで…、フェルセンの忠告が全く届かない現状が居たたまれませんでしたね。
そしてフェルセンはついに自らがアントワネットから離れたほうがいいという決断に至ってしまうのです。側近にするという話まで用意していたアントワネットにとっては寝耳に水な話でさらに大きなショックを受けてしまうわけですが、この時の彼女にはやはりフェルセンの本当の想いを理解することはとうとうできませんでした。
♪もう泣かない♪の歌詞の中で「もう秘密の恋には耐えられない」と歌いながらも「変わらずに愛しているからこそ」と本音を打ち明けているフェルセンがとても切ないです。
そんな二人のやり取りを見ていると、本当に「周りが見えなくなるような恋愛観」というのは恐ろしいなと思ってしまう(汗)。アントワネットとしてはルイ16世とそれなりに幸せな暮らしができていたわけですが、「恋愛」という感情を満たしてもらえるものではなかった。
多感な少女期にその心の穴を埋めてくれたフェルセンという存在は彼女にとっての救いであり、彼も自分と同じ気持ちで愛してくれていると妄信してしまったわけで…、忠告されたり離れていってしまう選択をされるなんて想定外すぎて受け入れられなかったんだろうなぁと。この作品のアントワネットの前半の人生を見ていると本当に色々な悲劇の種が見えてしまってもどかしい気持ちにさせられてしまいます。
マルグリットは生活苦のどん底にいる庶民の一人で、贅沢三昧な暮らしをしている宮廷、特にマリー・アントワネットへの憎悪を募らせていました。アントワネットには彼女がなぜそんなに自分に怒りをぶつけてくるのか全く分かってないし理解しようともしていない。ただあったのは、「可哀そうな娘」という軽い憐みの気持ちだけなんですよね…。あんな態度見せられたら、そりゃますます憎しみの感情が募ってしまうよと思ってしまう(汗)。
でも、「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」というローズの言葉に怒りを感じつつ差し出されたケーキを悉く奪い取っていくマルグリットのシーンは印象的でした。どんなに腹が立っていても、目の前に差し出されたケーキの存在は喉から手が出るほど欲しいものとして映ってしまった。必死に貴族たちからケーキをかき集める姿がとても哀しかったです。
そしてそれを貧しい町の人たちに配りながら♪100万のキャンドル♪を歌い「この貧しい地獄の現状を見つめることをしないのなら神の天罰を!」と怒りの感情を募らせていくシーンも印象的です。このナンバーはけっこうなビッグナンバーなのでここ最近で音楽番組のミュージカル特集の中で歌われることも増えてきましたね。
そんなある日、ジャーナリストのエベールと出会ったことでマルグリットのアントワネット憎しの気持ちにさらに拍車がかかっていってしまう。エベールはどちらかというと今でいうゴシップ記者みたいな感じなので、事実とは違うことも平気で誇張して本当のように記事にしてしまうところがある、どちらかというと危険人物。でも最初は庶民の味方的な顔しているわけで、マルグリットも彼を信用してどんどん行動がエスカレートしていってしまうんですよね(汗)。
さらにエベールには国王の弟のオルレアン公という超ビッグな後ろ盾もいたことから、結果的にマルグリットは「国王一族を没落させて自分がトップになる」といった彼の野望の手伝いもすることになってしまう。
冷静に考えるとマルグリットのこれらの暴走はかなり危険な印象が強いんですけど、彼女としては自分たちのどん底の生活の原因となっているのはアントワネットの贅沢三昧のせいだといった憎悪が大きいので自分の行動を顧みる余裕がない。初演の時にはそんな彼女を諫める存在のシスター・アニエスがいたんですけど、今はもういなかったことになってるので暴走に歯止めがかからない(汗)。
アントワネットを陥れるためなら手段を択ばない行動をとりまくってきたマルグリットでしたが、あるとき自分の情熱の言葉だけでは人が動かないという現実の壁に当たってしまうシーンがあります。
何を語っても聞く耳を持ってもらえないことに戸惑うマルグリットでしたが、あとからやって来たエベールやオルレアンが金銭を彼らにばらまき配ると態度が豹変、一気に暴徒となってベルサイユへと突き進んでいく存在になってしまう。それを見たマルグリットがとても複雑な表情をしたのが印象深い。
「金さえあれば何でもやる」というところまで追い詰められた庶民を目の当たりにしたとき、彼女の心が初めて揺らぐんですよね。もはや「情熱」や「理想」なんていう実体のないものに人の心が動かないと思い知らされたわけで、戸惑いを隠せなかったと思います。マルグリットが撒いた復讐の種は、彼女の想像を超えて恐ろしい方向へ進んでしまう。うーん、つくづく人の感情って複雑だなぁと思った。
アントワネットが幽閉された先にスパイとしてマルグリットが潜り込んだことでついに二人の運命が交錯します。始めはお互いへの不信感や憎しみから全く意思の疎通ができない。
そんなとき、アントワネットに会いに来たフェルセンがその場にいたマルグリットと語り合うシーンが出てくる。「私は君を嫌ってはいない」という言葉がマルグリットの心を揺さぶる。これまでもちょいちょい出会っては気にかけて助けてくれたりしたこともあったフェルセンの存在が彼女の中で大きくなってしまうんですよね。どん底の生活から這い上がろうと必死にもがき苦しんでいる気持ちもわかってくれていたことも大きく影響してて、いつしか彼に恋心のようなものを抱いてしまうのが切ない。
フェルセンはアントワネットの恋人であり、自分の恋はかなわないことを自覚した「なぜ私じゃないの」というマルグリットのセリフが哀しかった…。なんだかこの状況って、レミゼのエポニーヌとけっこう被りますよね(演じてるのが昆ちゃんだからなおさら)。
このまま二人は分かり合えないままになってしまうのかと思われた時、フェルセンの手引きでアントワネットとルイ16世が逃亡を図ったもののそれが失敗に終わりタンブル塔へ幽閉されてしまう事件が起こります。この時、王一家の世話係として入ったのがマルグリット。
アントワネットが子供たちのために子守唄♪明日は幸せ♪を歌うシーンがありますが、マルグリットにはその歌に聞き覚えがあった。ここで初めて二人の接点が「そうだったのか」という形で判明。二人の「MA」を対比してずっと描いてきた意味がここで明らかになる展開はドラマチックで好きです。なんとなく読めてはしまいますけどね。
このあとはもうアントワネットにとっては悲劇のオンパレード状態。近しい人たちが次々と去っていき、最後に息子と引き離されたことで髪の毛が一晩で真っ白になってしまうほど憔悴してしまう。そんな彼女を間近で見てきたマルグリットは、あんなにも憎んでいた存在だったのにいつの間にかアントワネットに心を寄せている自分に気づいてしまう。
そして裁判のとき、何としても王妃を死刑にという憎悪が渦巻く中でマルグリットは「彼女はただの母親だったのだ」という想いが沸き起こりアントワネットを庇い続け、アントワネットは人々の憎悪を一身に浴びて初めて「私の罪はプライドと無知、そして人の善意を信じすぎたこと」と悟るのです。二人とも、その考えに至るのがあまりにも遅すぎたよ…。特にアントワネットはねぇ…、フェルセンの懸命の忠告にも耳を貸さなかったわけだから、ほんとそれが悔やまれる。
それともう一つ恐ろしいと思ったのが、庶民の怒りと憎しみの感情の暴走。最初は被害者だったはずの民衆たちが先導者にどんどんと乗せられて暴徒化してしまい、いつの間にか加害者の立場に変わっていってしまう皮肉。これは今の時代にも十分ありうることだとも思えて背筋が寒くなります。憎しみの果てに待つのは悲劇しかないということを痛感させられました。
ギロチン台へ向かうアントワネットが地面に倒れた時、マルグリットがそっと彼女に手を差し伸べる。この時二人の間に初めて「姉と妹」という感情が芽生えたような気がして切なくなりました。でも、この物語のなかでの唯一の救いのシーンでもあったかな。
キャスト感想は次のページで。