ミュージカル『ファントム』 2008.02.22 千穐楽

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目を覚ましたクリスティーヌはキャリエールからエリックの生い立ちについて聞きます。そのときキャリエールが本当はエリックの父親だと明かされるんですね。

エリックの母のベラドーヴァを語る時のキャリエール・・・伊藤ヨタロウさんの演技がこれまた切なくてたまらなかった。愛していたのに結ばれない運命だったベラドーヴァ・・・。だからこのあとのシルエットでのベラドーヴァのソロがものすごく哀しく聞こえます。でも、エリックを生んだあとの彼女は幸せだった。声のみの出演ですが、ベラドーヴァ役の姿月あさとさんはこのあたりの母性を見事に歌い上げてくださいました。エリックを心の底から愛していたと言うのが痛いほど伝わってくる。さすがだなぁと本当に感動しました。

その話を聞いたクリスティーヌはすっかりエリックに想いの比重をおいてしまうわけで・・・これがある種悲劇の始まり。

エリックはクリスティーヌを罠にはめたカルロッタを呼び出し殺害してしまう。クリスティーヌに見せる顔とカルロッタに向けた恐ろしいほどの狂気の顔・・・この二つを非常に上手く演じ分けてましたね。今回エリックが縄を取りにいく前に投げ捨てる花束がちょうどカルロッタを襲う火薬の通り道に引っかかってしまってちょっとドキドキしたんですが事なきを得ました(汗)。

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My True Love

自分のもとに残ってくれたクリスティーヌを前にしてエリックは喜びに満ち溢れている。まるで子供のようにはしゃいで森を案内する姿がとても印象的です。こういうエリックの二面性を出す演技もすごく上手いと思う。

エリックが無邪気になればなるほどこちらは切なくなってしまうわけで…。そしてついにクリスティーヌは意を決して仮面を取ってほしいとエリックに頼み込みます。これはそのナンバー。愛があるならばと必死に頼んでいるんですが、今回の楽の演技は特に鬼気迫っていたし音ズレもあまり感じなかったですね。えりちゃんが本当に頑張ってた。

最初は頑なに拒絶していたエリックもクリスティーヌの必死の願いについに仮面を外した顔を晒してしまうんですけど・・・ここに至るまでの大沢さんの動きが非常にいい!!

まるで魔力にかかったかのようにゆっくりと近づいてクリスティーヌの前に跪いてゆっくり仮面を取るんですけど、ものすごい緊迫感がある。仮面を取ってゆっくり顔を上げる仕草がもう・・・。怯えるようにゆっくりゆっくり上を向いて、ショックを受けるクリスティーヌに手を差し伸べようとするんだけど逃げられてしまって・・・ここまでの一連の動きが切なくて切なくて仕方ない。

クリスティーヌに逃げられたあと仮面を落としてしまっているあの背中!!痛いほど悲しみが伝わってくる演技するんですよ、大沢さん。あれはちょっとすごいなと思うと同時に涙出ましたよ。とにかくひとつひとつの動作が繊細なんですよね。

My Mother Bore Me

素顔を見せたのにクリスティーヌに去られてしまったエリックは深い絶望感に襲われるのですが・・・このときの嘆き方が・・・まるで幼児に戻ったかのような搾り出すような声で・・・こちらの胸をえぐられるようなそんな感覚さえしてしまうほど哀しいんですよ。

絶望感から一気にワーッと嘆くよりも大沢さんの演技は苦しくなるほど深い深い悲しみが伝わってくるから本当にすごい。そして胎児のようにその場にうずくまって、歌いだしはまるで子供のような声で始まります。そこからだんだんクリスティーヌへのどうしようもなく溢れる想いが止められなくなって愛を叫んでる。

千秋楽と言うこともありさすがに大沢さんの声も多少疲れは感じられましたが、かえってそれがエリックの失望を浮かび上がらせているようでものすごく泣けました。エリックの感情がものすごく顕になるこのナンバー、ミュージカル初心者の大沢さんにはものすごくハードルが高かったと思うんですがよくぞあそこまで創り上げてくれたなと・・・そう思うとこちらの胸もいっぱいになってしまった。

一方逃げてしまったクリスティーヌはそのことを深く後悔します。先生は私を信じてくれたのに逃げてしまったと嘆く彼女に『中途半端な愛情は残酷だ』と語るキャリエールがものすごく印象的でした。

そしてエリックの中で何かが崩壊してしまってからついに凶行に出てしまう。警官から拳銃を取り上げる時の仕草が、まるで子供がおもちゃを手にしたようでとても印象的でした。興奮状態に陥ったエリックが周りが見えなくなっていることがすごく良く分かる。それだけに事態が悲劇へと進んでいくことをこちらも悟ってしまうわけで切ないんですよね。そしてついに銃弾を受けてしまう。

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You Are My Own

銃弾を受けて重症を負ってしまったエリックをキャリエールは父親として看病します。ここで初めてキャリエールはエリックの前で父親だと告白するのですが、それに対してエリックは「わかっていた」と答える。

ここの旋律ってエリックの母親ベラドーヴァが歌ってたナンバーと同じなのでなおさら切なくてたまらない。「やっと3人になれた」と安らぎに満ちた顔をするエリックに涙涙・・・。近づいてくる死を前にしてエリックはようやく家族の愛を感じることができるわけで・・・。これまた大沢さんがすごくいい表情してるんですよ。仮面をつけているんだけどエリックから心の闇が薄れていくさまがものすごく良く分かる。

そんな安息を得たかにみえたエリックでしたがクリスティーヌとやってきたシャンドン伯爵を見ると一気に嫉妬の炎に支配されて狂気の顔を見せてしまう。さっきまであんなに幸せそうな顔をしていたのが信じられないくらい殺気立ってて・・・シャンドン伯爵に銃を向けながら「お前は欲しいものは何でも手に入れてきたんだよな。だからクリスティーヌは僕のものだ」と迫るシーンは哀しくて哀しくてたまらなかった。

でも彼はクリスティーヌの「やめて」と言う声でシャンドン伯爵を撃ち殺すことができなかった。クリスティーヌの言葉はエリックにとって何よりも特別なんだろうなぁと思うとこれまた切ない。この時のエリックは怒りに満ちているんだけど実は心の中でものすごく涙を流しているんだと思うんですよね。大沢さんがそんなふうに演じてたから・・・。

最後追い詰められたエリックはロープに飛び移るんですが・・・これはすごい迫力ありましたよ。大沢たかお、アクション俳優か!?と最初見たとき驚きましたから(笑)。そのフライングも今回で最後かぁと思うとなんだか感慨深かったなぁ。こういうところがとことん大沢ファントムをカッコよく見せる演出なんだろうなと。ただ、下でロープ掴んでる人がいるのがちょっと不自然なんだよなぁ。そこだけが違和感。

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そしてロープの上からキャリエールに「母さんのところへ行きたいんだ」と自分を撃つように頼み込むエリック。ためらうキャリエールに何度も「父さん」と叫ぶシーンは涙なくしては見られません。今回は楽だからかいつも以上にボロ泣きしてしまった・・・。

エリックを撃ってしまったキャリエールが自分の頭を撃ち抜こうとして警部に止められるシーンもとても哀しくて印象的です。撃たれてロープから一気に滑り落ちるエリックのもとへクリスティーヌが駆け寄り仮面を取ると、そこには醜さはなく美しい素顔がありました。エリックは瀕死なんだけど、その顔には悲壮感がなくものすごく平穏で幸せそうな表情で溢れています。大沢さんがここでも非常に素晴らしい表情を魅せてくれてますよ。涙止まらなかった・・・。

と、いう感じで千秋楽も無事に幕となりました。ちょっと今回はいつもよりも感極まり度が高くて客電落ちてからもしばらく涙が止まらなくなってしまった。

最後に大沢たかおさんについて

最初にも書いたとおり、私は大沢たかおさんのファンではなく「ファントム」という作品に惹かれ今回観劇しました。観劇前までは本当に大沢さんに対するテンションが低くて正直どうなのよ、みたいに思ってたんですが・・・想像していた以上にミュージカルに真摯に取り組んでくれているということが伝わってきて今まで抱いていた印象がすっかり変わりました。

歌は決して上手いと言えなかったけれどもものすごく熱いエネルギーをビリビリ感じました。ファントム・・・エリックをよくあそこまで掘り下げてくれたなと。最初から最後まで「大沢たかお」ではなく「エリック」として私は見ていました。そこまで感じさせてくれたことが単純にものすごく嬉しかった。だから今回久しぶりにアンケートにも記入してきてしまった。

これからもフィーリングが合う作品があればぜひ舞台に・・・ミュージカルにもチャレンジしてほしいです。舞台にすごく向いていると思うから。ちょっと今後は要チェックな人になってしまったなぁ・・・。これからの活躍に期待です。大沢たかおさん、ありがとう、そしてお疲れ様。

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