ミュージカル『手紙』 2022.03.24ソワレ

主なキャスト別感想

村井良大くん(武島直貴役)

これまで数本村井くんのお芝居を観てきましたが、この『手紙』の直貴役は本当にハマリ役と言っていいほど素晴らしかったです。学生時代から結婚して大人の青年になるまでの成長を、違和感なくきっちり演じ分けていたのもすごかった。最初に登場した時と最後に登場した時の表情がまるで違っていましたから。直貴の辿ってきた人生がそこにしっかりと刻み込まれていた。

特に素晴らしかったのは、直貴が精神的に追い詰められた時の感情表現です。村井くんの繊細で張り裂けそうな感情のお芝居を目の当たりにして、私は何度も涙させられました。直貴の心の痛みがこれでもかというほど伝わってきて胸が苦しくなった。

そしてラストシーン、歌い出そうと思っても声が出なかったあの瞬間の表情…!!目の前の兄と交わした静寂の時間の中で、12年間たまった心の叫び、兄への感情が一気にぶわっと押し寄せて崩れそうになっていたあの表情…!!思い出すだけでも涙が出ますよ・・・(涙)。村井くんと直貴の魂が重なり合ったかのような心震える時間でした。あれは芝居越えてたよね、本当に。

歌はすごく上手という感じではないんだけど、とても素直で感情がストレートに伝わってくるのがとても良い。村井くんの歌には演じる人物の心が染み込んでいるのでいつも心を大きく揺さぶられてしまいます。今回の直貴役もしかり。改めて、村井良大くんの演じる姿がとても好きだなぁと実感させられました。再演があったらまた演じてほしいです。もちろん、次の作品も大いに期待しています。

spiくん(武島剛志役)

久しぶりに舞台で演じるspi君を見たけれど、こんなにも繊細なお芝居ができるのかと驚かされました。これまではパワフルでワイルドなイメージが大きかったんだけど、今回の剛志役はどちらかというと精神的に少し幼い印象が強かった。出来は悪いけれど、弟想いでピュアで…大きな罪を犯した人物なのに憎めなかった。

遮断された環境の中で、ひたすら弟の直貴に想いを馳せ手紙を読んで無邪気に喜んでいる姿は特に印象深かったです。剛志が弟に依存すればするほど、直貴の影の部分がより色濃く見えてくるような気がして心が痛くなりました…。

そんな彼が最後に弟の本心を知ってしまった時の、あの何とも言えない後悔の念のこもった表情は見ていて本当に居たたまれない気持ちにさせられたなぁ。あれだけで彼の受けた衝撃の大きさが一目で理解できた。そしてあのラストシーン…泣いた!!やっぱり剛志にとって直貴という存在は唯一無二なんだって思い知らされました。ずっと後ろ向きで舞台上の直貴を見つめているんだけど、大きな背中が弟への色んな感情を雄弁に物語っていた。あの芝居は本当に素晴らしくて…忘れられません。

剛志の本当のラストはボカした感じの演出になっていたけれど、私は彼が現実世界へ戻り自らの罪としっかり向き合い生きていくと思いたいです。
カーテンコールのspiくんは満面の笑顔で登場していて、なんだかその可愛さにすごく救われてホッとした気持ちになりました。

三浦透子さん(由実子役)

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の一恵役や、アカデミー賞を取った『ドライブ・マイ・カー』でも大きな注目を浴びた透子さん。今回初ミュージカルということで、どんな歌声を披露するのかとても楽しみにしていました。が、聞いてみるとどこかで耳にしたことがあるというデジャヴのような感覚に…。そう、私は彼女の歌声を聴いたことがある!映画『天気の子』で歌声を披露していたのは透子さんだったではないか!!

透子さんが演じた由実子は『手紙』という作品の中の”救い”的な存在だったと思います。厳しい環境に置かれた直貴に常に寄り添い励まし続ける彼女の姿に何度も心打たれました。とにかく、歌声の透明感がハンパない!
どんなにシビアな場面でも、どんなに直貴が苦しんで心が折れそうな場面になっても、透子さん演じる由実子の歌声が聞こえてくるだけで黒い霧がサーっと晴れていくような優しい温かい空気に変わっていくんです。直貴が極限状態の中でも生き抜いてこれたのは、由実子の存在があったからだとすごく思いました。

透子さんの歌声には何度も癒されました。直貴だけではなく、舞台を観るものの心も浄化してくれるような…そんな不思議な力すら感じたな。どんな時でも直貴の心に寄り添う、芯の強い優しさあふれるお芝居も素晴らしかった。また舞台の上の彼女を観たいと思いました。

スポンサーリンク

中村嶺亜くん(祐輔役)

ジャニーズJr.の「7 MEN 侍」からは3人出演していましたが、そのなかで一番溌溂としたお芝居をしていたなと感じたのが中村君でした。どんなに直貴が窮地に陥っても常に対等に接してくれる祐輔。その明るさと誠実さは由実子同様、この物語の中の大きな”救い”でもありました。

青野紗穂さん(朝美役)

青山さんは「RENT」のミミ役が印象的でしたが、今回の朝美役もハマってるなと思いました。直貴と一度は恋仲になりながらも、彼の兄の件を知って離れていってしまうシーンは印象深いです。朝美は犯罪者の兄がいるから離れたというよりも、付き合う関係にありながらも直貴が自分に心を開いて打ち明けてくれなかったことに怒りを覚えたのではないかなと思えてしまった。このあたりの複雑な感情を青野さんは繊細に表現していたと思います。

あと、ライブシーンでの歌がとても素敵でした。直貴が聴き惚れてしまうのも納得です。

染谷洸太くん(忠夫役)

染谷くんは殺されてしまった緒方敏江さんの愛息子役でしたが、最後の直貴と対面するシーンがとても印象深かった。疲れ切った表情の中に、母を奪われたことへのやるせない怒りや哀しみが滲み出ていて胸が痛くなりました。それでも、直貴と対面して最後にあのセリフを告げる。思い出すだけでも心が震えるくらい、あの一言に泣かされました…。

もう一つの朝美の婚約者・孝文役はそれとは真逆の人物で面白かったです。朝美に執着しているが故に、彼女と付き合っていた直貴を天国から地獄へ突き落す役。すごく冷たい印象が強かったけど、本当は朝美に振り向いてほしい一心なんじゃないかなと思えてちょっと感情移入してしまうことも。

川口竜也さん(平野役)

この作品には初演から参加しているという川口さん。その存在感はとてつもなく大きかったです。まさに精神的支柱みたいな感じで、川口さんが登場するだけで舞台全体にいい緊張感が生まれていたような気がしました。

直貴に印象的なアドバイスを与える平野社長役。語り口はとても穏やかで優しい雰囲気を醸し出していましたが、決して生易しい言葉はかけない厳しさを持っている。犯罪者家族として生きる直貴の苦しみを受け止めたうえで、あえてシビアな現実を突きつけたり「こう生きるべきだ」と言ったはっきりした答えを告げない。だけど、その言葉の端々からは直貴に対する愛情が滲み出ているようでした。あの雰囲気があったから、どんな厳しい言葉でも「彼の為を思ってのことなんだな」と腑に落ちる。そのあたりの繊細なお芝居が本当に素晴らしかったです。

一方、刑務所の剛志の隣にいる先輩囚人役も担当されていた川口さん。先輩囚人は時々剛志をからかいながらも、弟想いの彼のことを常に気にかけているように見えました。でも、外の世界と刑務所の世界の違いも分かっていて、弟は自分を思い続けてくれていると頑なに信じようとする剛志に「現実を知れ!」と熱く説得する場面も。きっと、剛志のピュアな部分に共感はしながらも、だからこその危うさをずっと感じていたんだろうなと思ったな。

直貴に対する平野は穏やかで厳しさの中に優しさをにじませる人物、剛志に対する先輩囚人は少しコワモテで熱くなるけれど根は良い人で何かと気遣ってくれる人物。二人の兄弟の人生にそれぞれ関わってくる人物をとても魅力的に演じてくださっていたと思います。この作品を熟知して愛している川口さんだからこその素晴らしいお芝居でした。

スポンサーリンク

後述

未だにコロナの収束が見えず休演する舞台も後を絶たないなか、無事に初日から千穐楽まで休みなく上演できたとのこと、本当に良かったと思います。

私が観劇した日には大きなカメラが数台入っていましたので、もしかしたら今後ディスク化、または有料番組での放送というのもあるかもしれないなと。たしか、2016年版と2017年版はDVD化されていましたよね。今回の新キャストバージョンのもぜひとも映像化していただきたいです。

決して楽しいストーリー展開ではないけれども、心が締め付けられるような感情が沸き起こったとしてもそれは嫌なものではなかった。リアルな人間感情に触れた、とても良質な時間を過ごせたと思っています。
久しぶりに劇場へ足を運んで(しかも飛行機遠征でw)舞台を観たけど、やっぱり生のお芝居は最高です。ありとあらゆる人間の生の感情を直接感じ、心震わせて涙を流すことに大きな幸せを感じました。

千穐楽の日、村井良大くんはカンパニーの皆さん一人一人に”手紙”を書いて贈ったそうですね。彼の優しさと温かさが伝わるエピソードで、なんだかこちらもホッコリして泣けてしまいました。

とても素敵な舞台だったので、近い将来、また同じキャストで上演してほしいです。村井くんの直貴、spiくんの剛志、透子さんの由実子たちにまた会いたい。みんなとても愛しかった。

そして…、できれば、関東だけでなく地方公演も来てほしいなぁ。特に関西。東京公演数週間だけというのが非常にもったいない。もっと多くの人にこの作品を知ってほしいし見てほしいなと思っていますので、ぜひともお願いしたいです。

error: Content is protected !!