ミュージカル『タイタニック』を観に、東京まで遠征してきました。
実は大阪公演もあったりするのですが、期間が短すぎてほとんど予定に合わず(大千穐楽だけは行く予定)、思い切って東京遠征に切り替えました。
ミュージカル『タイタニック』は、これまでの私の観劇人生のなかで3本の指に入るほど思い入れが特別深い作品です。
2007年のブロードウェイ版初演を観た時から完全に虜となってしまったのが始まり。初めて見た時はあまりにも予想外の感動の波に飲まれて・・・終わった後は3日くらいまともに眠れなかったほどでした(汗)。
その後再演も観に行って…しばらく公演がないなと思っていたら3年前にトム・サザーランド演出版として新しく生まれ変わった『タイタニック』が登場。
そしてついに今年また再演ってことで、もう本当に待ちに待ち続けていましたよ!!私の中では宝物みたいな…特別な存在なんです、この作品。再会できたことが本当に嬉しかった。
3年前もかなり号泣しながら見たんですが、この当時いろいろと多忙でブログ書いてなかったんですよねぇ…。記録に残せなかったことが悔やまれる。
ということで、07年と09年の記録をこちらに移転させてきましたw。当時の私の熱狂ぶりとブロードウェイ版の雰囲気などは以下の過去記事をどうぞ。
日本青年館ホールは昨年『パジャマゲーム』で遠征した時以来。そういえばあの作品もトム・サザーランド演出だったっけ。
参考 『パジャマゲーム』東京公演感想
ちなみに、観劇した日は「SNSキャンペーン日」と重なっていたため、非売品のポストカードをいただいてきてしまいました。
佳き記念となりました。
以下、2018年版タイタニックのネタバレを含んだ感想になります。
2018.10.02~03マチネ公演 in 日本青年館ホール(渋谷)
キャスト
- アンドリュース:加藤和樹
- イスメイ:石川禅
- バレット:藤岡正明
- エッチス:戸井勝海
- エドガー・ビーン:栗原英雄
- アリス・ビーン:霧矢大夢
- キャロライン・ネビル:菊地美香
- チャールズ・クラーク:相葉裕樹
- マードック:津田英佑
- ジム・ファレル:渡辺大輔
- ブライド:上口耕平
- ライトーラー:小野田龍之介
- ハートリー:木内健人
- ベルボーイ:百名ヒロキ
- フリート:吉田広大
- ケイト・マクゴーワン:小南満佑子
- ケイト・マーフィー:屋比久知奈
- ケイト・ムリンズ:豊原江理佳
- 給仕:須藤香菜
- アイダ・ストラウス:安寿ミラ
- イシドール・ストラウス:佐山陽規
- スミス船長:鈴木壮麻
群像劇なので、皆さんほぼ均等に出番があるし歌もあります。
また、和樹くん、禅さん、壮麻さん、津田さん以外は一人で何役もこなしているのでだれがどの役になっているのか探すのもなかなか面白いですね。
ただ、あまりにも複数役が多いので1度だけでは追うのがかなり大変ですが。
殆どの役者さんが一人で複数役こなしてるっていうことは、初めて観劇する人はちょっと頭に入れておいた方がいいかもしれません。じゃないと「さっきと性格が違う」とか「さっきと身分が違う」とか混同してしまうかもしれないので。
でも、皆さんキッチリと演じ分けていたからそのあたりの心配は少ないかな。
あらすじと概要
このミュージカルは、レオナルド・ディカプリオが主演した映画『タイタニック』とはほぼ違う内容になっています。
タイタニック号事件の骨格は史実でもあるので同じと言えますが、映画では三等客のジャックと一等客のローズの恋愛模様に物語のスポットが当たっていたのに対して、ミュージカルでは”タイタニック号に乗り合わせた人々”全体にスポットが当たっています。
主演は加藤和樹くんが演じるトーマス・アンドリュースということになっていますが、上記でもちょっと触れたようにほぼすべての役者さんに均等に見せ場があるのが特徴的だと思います。
アンドリュースが主役になっているのは、おそらく”タイタニック号を設計した人物”・・・つまり、この事件の一番最初の発端となった人物として捉えられているからじゃないかなと。アンドリュースが設計しなければ、タイタニック号はこの世に存在しなかったことになりますからね。そのすべての始まりの人って意味で主人公となっているんだと思います。
あらすじは以下の通り。
Act.1
タイタニックの船主J・ブルース・イスメイは、未曽有の沈没事故の責任を問う裁判の席で、人類がこれまで築き上げてきた偉大な建造物の数々に思いを馳せる。かつては作成不可能と思われた豪華客船RMS タイタニックは、その中でもすべてを凌駕するものだった。
サウスハンプトンの波止場に到着した機関士フレッド・バレットは、タイタニックのあまりの素晴らしさに驚嘆する。そこで彼は、見張り係フレドリック・フリートと無線係ハロルド・ブライドに出会う。「夢の船」を前にして驚きの声を上げる三人。やがて一等航海士マードックと二等航海士ライトーラーを始めとする船員たちも到着し、その中にタイタニックの船主イスメイと設計者トーマス・アンドリュースと船長E・J・スミスの姿がある。この「世界最大の可動物」を前に、それに関わっている自分たちを祝福し合う三人。
遂に出航の時が訪れタイタニックは大海原へと走り出し、そこにいるすべての人間が、その船旅の安全を祈るのであった。
イスメイはスミス船長に「タイタニックをニューヨークに早く到着させたい」と告げるが、処女航海は安全を第一に考えるべきだ、とアンドリュースが主張。ふたりの口論を聞いたうえで、船のスピードを少し上げるようにと指示する船長。ボイラールームで働くバレットはその指示を聞き、こんな新しい船で無理をするのは危険だと感じつつも、しぶしぶと命令に従う。
二等客室では、アリス・ビーンが一等客たちの壮麗さに憧れている一方で、彼女の夫である金物屋店主エドガー・ビーンは自分たちの今の生活で充分満足なのである。アメリカでジャーナリストになることを夢見るチャールズ・クラークは婚約者のキャロライン・ネビルと旅をしている。キャロラインの父がふたりの婚約を認めなかったため、駆け落ちをしたのだ。ふたりの間の階級差に縛られ苦悩するチャールズに、キャロラインは優しく「本当に大切なのは、ふたりの絆。私に必要なのは、あなただけ。」と諭すのだった。
三等客室、偶然にも同じケイトという名前を持つ三人のアイリッシュの娘たち(ケイト・マクゴーワン、ケイト・ムリンズ、ケイト・マーフィー)が、他の乗客たちと共に、アメリカで待つ夢の暮らしを語り合う。マクゴーワンはその中のひとりの若者ジム・ファレルに恋をする。
イスメイから「船の名声を上げるために、もっとスピードを上げろ」という要求が出され、アンドリュースが反対するにも拘らず、船長はこれを呑んでしまう。その頃、無線室ではブライドが客から託された数々のメッセージを送信する作業に追われていたが、恋人へのプロポーズを送ってくれというバレットの頼みに応える。
日曜の朝、ミサに出席した一等客たちは、その後、デッキの上でハートリー率いる楽団が奏でるラグの調べに乗せてダンスを楽しむ。やがて日が傾くに連れて気温が下がり、見張り係のフリートは天気のせいで氷山を見つけることが難しいことに気が付く。
すると突然、眼前に氷山が現れ、慌ててブリッジに警告を発するフリート。それを聞いたマードックも緊急回避の指示を出すが、時すでに遅く、タイタニックは氷山に接触してしまうのであった。
Act.2
ブリッジに到着し状況を把握した船長は、救命胴衣を着けるようにという指示を乗員乗客に出し、遭難信号を出すようにブリッジに命じる。船が受けたダメージの度合いを調べるように頼まれたアンドリュースは、船体の損傷に船は持ち堪えられずタイタニックはやがて沈むと、船長とイスメイに告げる。だが、船の上にある救命ボートには乗員乗客の半数にも満たない人数しか乗ることができない。女性と子供たちが救命ボートへと誘導される中、男性は船上に残るように指示が出される。彼等は、愛する者たちとの別離を覚悟するのだった。
ベルボーイが、すべての救命ボートが海に出たこと、そして残った乗客たちは既に覚悟を決めていることを船長に報告する。事故の全責任は自分にあると話すマードックに「今まで自分の担当した航海で事故など起きたことがなかった」と哀しげに語る船長。そんな彼を見て、エッチスは船長になることの責任の重さを歌う。その頃、夫の元を去ることを拒否したアイダ、そしてイシドールの夫妻は、決して絶えることの無いお互いへの愛を静かに噛み締めていた。
その朝早く、カルパチア号に救助された生存者たちは、静かにタイタニック号の悲劇を語り、沈んでいった船、死んでいった人々を悼む。海に散った愛する人々、波間に消えた儚い夢。彼等にいつか再び巡り合える日が来ることを、みな静かに願うのだった。
公式HPより引用
まず、声を大にして言いたいのは・・・モーリー・イェストンの音楽の素晴らしさです!!
悲しい物語を、あの美しい色とりどりの表情を持った音楽が優しく包み込んでくれているような・・・そんな旋律なんですよ。初めて聴いたとき、「こんな美しいドラマチックな音楽がミュージカル界に存在していたのか」と衝撃を受けたくらい感動的だった。
モーリー・イェストンの音楽があってこその、ミュージカル『タイタニック』だと思います。
私は初演観た時にすぐこのCDを購入して、何度もリピートしました。それ故に、ほとんどの曲を空でハミングできるくらい覚えてしまったw。今のところこの1枚しか存在していないようなので、そろそろ新しく録音してほしいかも。日本語版もあればいいのになぁ・・・。
海外ではミュージカル『タイタニック』コンサートもやっているようなので、日本でもぜひ実現させてほしいものです。
07年と09年と、15年からのトム・サザーランド演出版とでは大きく変わった点があります。
ひとつは、オープニングの♪いつの世も♪のナンバーを、アンドリュースではなくイスメイに歌わせている点です。初演と二演目ではアンドリュースが設計図を見つめながら遠くを見つめるように歌ってたんですよね。どちらかというと抽象的な印象がありました。
それが、トムの演出でこのナンバーをイスメイに歌わせることによってより現実が浮かび上がるような印象に変わりました。一人だけ関係者の中で救命ボートに乗って命を長らえてしまったイスメイがなんとも言えない心境のまま過去を振り返り、過去の物語へのつなぎがスムーズになりました。
それから、二等客のドラマが一つ増えたのも大きな変更点だったかな。
最初は、二等客のドラマはエドガーとアリスしかなかったんですよね。そこに、15年からチャールズとキャロラインが加わってナンバーも増えました。
この二等船客カップルの物語は、ミュージカルの中でもかなり大きな「肝」として描かれていると思います。1幕での彼らのやり取りをじっくり見ていると、2幕の切なさが半端ないですよ…ホントに。
ラストシーンの解釈もトム演出版になってから変わった印象が強いです。15年版でラストを観た時、私が知っていたものとはドラマの見え方がだいぶ違ってて・・・「あ~~、そうきたか!!」と大きな衝撃を受けたのを思い出します。
人間ドラマが以前にも増してより繊細に切なく展開されていて号泣でした。今回も嗚咽に近いくらい泣いちゃいましたよ・・・(涙)。
それからもう一つ。
トム版になってから、開場して客席に入った時から「芝居」がスタートしているという演出になりました。前回は、「もう始まってるのか!」っていう驚きでその意味などにまで考えが及ばなかったんですが(汗)、今回は、その開演前から始まっている「芝居」の意味が分かった気がしました。
別段客席に向かって何か話しかけたりということではないんですが、あの「芝居」があることで、2幕のクライマックスがものすごく分厚いドラマとして感じられたんですよね。あのシーンは、前回公演以上に胸が張り裂けそうになるような気持ちがこみ上げてきてボロ泣きしてしまった。
なので、この作品においては、なるべく早い時間に客席についてほしいなと思います。「芝居」のことに関しては、大阪大千穐楽を見終った後に改めて触れたいと思います。
あとは、今回も1階席全体を使った演出で、見ている私たちもタイタニック号に一緒に乗っているかのような錯覚が起こるような気持になります。特にオープニングは登場人物と同じような高揚感が押し寄せる感じがしました。
ということなので、舞台が始まってから25分くらいはお客さんの出入りが禁止となっています。最初に乗り遅れると出航の場面まで生で見れない(おそらく外のモニターでは見れるかと)ので、なるべく早めに劇場へ行くことをお勧めします。
セットも前回よりタイタニック号の全体像が見えるように工夫されていて、デッキや甲板などがリアルに感じられました。特に奥行の使い方が上手いなぁと思いましたね。背景の空の色もシーンによって変化していくのですが、この色がとても美しかった。
動くセットはほぼ階段1つのみというのもすごいです。この階段を役者さんたちがシーンごとに移動させながら動いていくのですが、その位置によって場面の見え方がだいぶ違う雰囲気に変わる。シンプルなんだけど、色んな表情を見せてくれる「移動階段」の使い方に感動しました。
ただ、あまり前方席過ぎると上のデッキでのお芝居がちょっと見づらいというのが難点かも(汗)。1回かなり前方の席で観ることができたのですが、階段上の芝居(特に端っこの上部)が分かりづらかった。客席の列をもう1段下げても良かったかも(劇場の構造上無理かもしれないけど 苦笑)。
タイタニック号事件については、映画の大ヒットもあって知らない人は少ないかもしれません。顛末を知っているが故に泣ける場面が多い作品かもしれない。タイタニック号事件を知らない人は、素直にこの物語に身を投じて色々なことを感じてほしいです。
知っている人も、知らない人も、それぞれどこかの場面できっと心の奥に響く物語がきっとあるはず…。
ミュージカル『タイタニック』は、人間ドラマの縮図を描いた心揺さぶる作品だと思います。
全体感想
3年前に演出ががらりと変わって新しい作品として蘇ったミュージカル『タイタニック』。今回のトム版再演ですが、基本的な部分は変わっていなかったものの、前回よりもさらに演出がシンプルになってより濃い人間関係が見えてきたなと感じました。
なんていうか、よりセリフや歌詞の部分の力強さが増したように思えて、以前よりも深くキャラクターの心情がストレートに沁みこんでくるような感覚があったんですよね。
『タイタニック』は悲しい結末が待っていて、そこに向かって突き進んでいく切なさみたいなものが冒頭からどっと押し寄せてくる物語なんですけど・・・今回見て一番感じたのは、それ以上に、タイタニック号の中で生きた人々の「想い」の部分でした。事件の悲しさも本当に泣けるんですけど、絶望的な状況の中で、様々な立場の人たちの浮き彫りになる強い「想いや心情」がものすごく印象に強く刻まれました。
一等客のストラウス夫妻は、船に乗ることを勧められたときに「女性や子供が先だ」と言って拒むんですよね。夫のイシドールは折を見て妻に船に乗るよう勧めるんですが、彼女は「あなたのいない世界で生きていくことは考えられない」と強くそれを拒絶して夫と最後まで添い遂げる道を選ぶ。
非常に切迫した状況下で浮き彫りになる、ストラウス夫妻の海よりも深い愛情には本当に涙が止まりませんでした…。
このストラウス夫妻は史実にもあって、映画でもチラッと登場していましたよね。ミュージカルはそれ以上の見せ場があるのでより当時の二人の想いがさらに胸に迫ってくると思います。
個人的には、自分たちの救命胴衣をメイドさんたちに渡すシーンですでに涙涙…となりますね。
二等客のアリスとエドガーは凸凹夫妻。夫のエドガーは鍛冶屋で地道な生活をモットーにしているのですが、妻のアリスはそんな「普通」の生活に実はストレスを感じていたりする。それ故に1幕では二人の価値観がすれ違ってばかりで、アリスの突飛な行動に振り回されるエドガーにはちょっとクスリとさせられたりする。
で、エドガーはついにそんな派手な生活への憧れを強めるアリスにキレてしまうんですが・・・この場面は前回よりもエドガーの苛立ちがより鮮明に描かれていたなぁという印象がありました。基本的にはクライマックスまではコミカルな夫婦なんですけど、エドガーの「なんで自分の気持ちをわかってくれないんだ!」的なモヤモヤ感には今回とても感情移入してしまったかも。
だけど、エドガーはそんな自分の苛立ちよりも結局はアリスへの愛が勝るんですよね。♪オータム♪の音楽に合わせてアリスと強引にダンスをした後キスをする大胆さにちょっとドキリとしたしトキめきもしました(笑)。
そんなエドガーの大きな愛が、2幕後半になって見るものの心をどうしようもなく震わせることになるわけです。アリスはあの時初めて、夫への深い愛に気付かされたんじゃないかな…。
さらにもう一組の二等カップルのチャールズとキャロラインにも紆余曲折の想いが存在していたりする。最初はめっちゃラブラブなんだけど、実は二人は身分違いカップルであることが判明していって・・・一等客室係のエッチズがキャロラインに話しかけたことでチャールズは劣等感に支配されてしまう。つまり、キャロラインのほうが身分が上で、それが原因で結婚を反対されて駆け落ちしてしまったわけです。
自分の方が身分が低いということへの劣等感に一度は苛まれたチャールズでしたが、こちらもやはりキャロラインへの愛情のほうが勝るわけで。自由の国アメリカに着いたらしがらみなく晴れて夫婦になれるという希望を二人で共有して丸く収まるんです。
自由の国アメリカで、夫婦になって新しいスタートを切ろうと約束した二人・・・。幸せになってほしいなって思いながら観ているだけに、二幕の残酷な運命が訪れる場面は本当に辛くて切なくてたまりません。
三等客のドラマについては次の感想の時に・・・。私ここの場面は大泣きしちゃうんですよね・・・。
エンジンルームで石炭をくべる機関士のバレットと、電報を打つ通信士のブライドのやり取りも想いが溢れていて本当に泣けるんですよね…。
こっそりと通信室へやってきたバレットは、イギリスで待つ恋人に結婚の約束の電報を打ってほしいとブライドに依頼。最初は高額なお金が発生することでバレットは諦めようとしますが、気を利かせたブライドが「タダにするよ」とサービスしてくれる。
この作品の中でも数少ない、ちょっとクスっと笑える場面になってます。それと同時に、優しくて温かい二人の会話に心がジンワリと温かくなるんですよね。
ブライドは引っ込み思案で友達もほとんどいない。でも、出航の日にバレットと初めて出会って言葉を交わした時に「彼とならいい関係になれるかも」という予感を覚えたんじゃないかな。それ故に「タダでいいよ」って言葉が出てきたんだと思う。
バレットは恋人への真実の想いを切々と歌い、ブライドは一人ぼっちになりがちだった自分に新たな出会いが生まれそうだという希望を歌う。どちらの想いもとても温かくてジーーーンときてものすごく泣けます。
そして、この作品の中で一番自分たちの醜い感情を表にさらけ出し激しいやり取りをしていくのが・・・2幕のアンドリュース、スミス、イスメイの3名です。
船が沈む運命になったのは何故なんだという問答は、いつの間にかお互いがお互いに責任をなすりつける罵り合いへと発展してしまう。ここの「誰のせいだ!!」と罪をなすりつけ合う♪諍い♪のナンバーでの3人のむき出しの感情は圧巻で、観ているこちらは思わず息を止めてしまいたくなるんです。
スミスはタイタニック号の中では絶対的な存在で、時には部下に対しても高圧的になる。自分の判断は絶対だという確固たる自信があった。
イスメイはタイタニックの船主としての名誉を得たいがために、無謀な要求をし続けていた。自らの保身を何よりも大切にしていた。
そしてアンドリュースは設計したタイタニック号への自信を疑ってはいなかった。事故を想定せず船主の言われるがままに外見の美しさにこだわり救命ボートを大幅に削ってしまった。
多くの命を預かっているという自覚に欠けた3人の、窮地に陥った時の責任のなすりつけ合いは「ひどい」という感情よりも「哀れ」という感情の方が強く感じたところかもしれません。人間の弱さが浮き彫りになる象徴的な場面なんですよね…。
このやり取りを経て、アンドリュースは自分の描いた設計図を振り返り激しい後悔の念に襲われて精神的に追い詰められてしまうのです…。もう、その気持ちを考えると辛くて切なくてたまらなかった。
最後、全てが「静寂」に包まれたとき、舞台には生き残った者たちの後ろに『タイタニック号の犠牲者を悼んで』というタイトルと共に犠牲者全ての名前が記された幕が降りてきます。その後ろに、タイタニックと運命を共にした人々が立ち尽くしていて、生き残った者を見つめている。
そして冒頭のシーンと重なるラスト。様々な人々の想いが舞台の上には色濃く確かに存在していて・・・もうあの場面は、嗚咽に近いくらい泣きました。声出さないようにするのに必死だった(汗)。
この作品については、もっともっとたくさん語りたいシーンが山ほどあるんですが・・・とりあえず今回は最初なのでこのあたりで止めときます。大阪千穐楽を観たあと、それぞれのシーンで印象に残ることについて書いていく予定。
主なキャスト別感想
加藤和樹くん(アンドリュース役)
3年前のトム演出版からアンドリュースを演じている和樹くんですが、あの頃よりもずっと人物の輪郭がしっかり見えてきた気がします。ここ数年は大きな舞台で活躍することが増えてきましたから、それらの経験が生きてるのかもしれないなと思いました。
和樹くんのアンドリュースは、本当に立ち姿といい表情といい…どこをとっても美しい。食卓シーンで動きがピタリと止まる場面があるのですが、その時なんか彫刻のような美しさを感じてドキリとしてしまいましたよ!!その美しさが、よけいアンドリュースの悲しさを浮き立たせているのかもしれないなと思いました。
石川禅さん(イスメイ役)
タイタニックという作品にこれまで禅さんが出ていなかったことが不思議なくらい、めちゃめちゃ馴染んでました。やっぱり禅さんの芝居は舞台全体をすごく引き締めるし、ドラマをより濃く浮き立たせる存在ですよね。
1幕冒頭でイスメイが回想する場面がありますが・・・もう、歌いだす前から禅さんの目から涙が零れそうになってて・・・私はその表情を観た瞬間からもう涙がこみ上げてきて仕方なかったです。
意外にも禅さんの演じたイスメイは歴代から比べるとちょっとソフトな印象でしたね。3年前の綜馬さん(現・壮麻さん)のほうが尖ってる印象がありました。トークショーの時に言ってたけど、どうやらトムから「もっと柔らかく」って指示があったようで。
嫌な感じを出しつつも人当たりはソフトな雰囲気があった禅さんのイスメイ。あの匙加減が本当に絶妙で素晴らしかった!!それ故に後半の爆発力がなお生きていたように思います。
鈴木壮麻さん(スミス役)
07年の初演版では通信士のブライドを演じていた壮麻さんが、ついにキャプテンに進出ですよ!!これまで、宝田明さん、光枝明彦さん、と大ベテランの役者さんが演じてきたのでプレッシャーも相当だったようですが・・・ふたを開けてみれば見事なスミスキャプテンで!!正直、予想以上に威厳たっぷりで規律に厳しいリアルなスミスだったと思います。
特に部下に厳しく当たる場面とかは見ているこちらがゾクっとくるような恐ろしさを感じさせたし、「自分こそが王様」といった雰囲気がものすごく色濃く感じられました。
藤岡正明くん(バレット役)&上口耕平くん(ブライド役)
トム演出版初演からの続投組の藤岡くんと上口くん。あの頃よりも二人の通信室でのやりとりがとても柔らかで温かいシーンになっていたと思います。
藤岡くんの『バレットの歌』は迫力があって機関士としてのもどかしさがビリビリと伝わってくる。上口くんの『夜空を飛ぶ』は友達ができることへの喜びが控えめながらも高揚していく様子が感じられて感動的でした。
藤岡くんも上口くんも本役意外に1等客の役もこなしているのですが、全く違った雰囲気を醸し出していて「別人」であることをハッキリと理解させていることが本当に凄いなと。ちなみに藤岡くんはグッゲンハイムで、上口くんはセイヤーを演じてますね。
戸井勝海さん(エッチス役)&津田英佑さん(マードック役)
戸井さんと津田さんも前回からの続投組ですね。やはり二人とも役が染みついていたからか、全く違和感なく見ることができました。
戸井さんはますます1等船客給仕係としての品が高まっていて、実際の1等給仕さんたちもあんな感じだったんじゃないかなって思えるほどリアルだった。でも勤務の休憩中はエッチスのオフな素の部分が出ていたりして、そのあたりの芝居のメリハリの付け方が素晴らしかったです。
津田さんのマードックは前回公演よりもすごく人間的な感じが出ていて、事故を起こしてしまった後の芝居は時間を追うごとに切なく哀しく…思わず涙が零れてしまいました。「私を買いかぶりです」という最後の台詞は胸が締め付けられるような痛みを感じて本当に哀しかった…。
ちなみに津田さんは大ヒット映画『アナと雪の女王』で王子の吹替えをしてた人です。一時期テレビ出演増えてましたね。ミュージカル出演も多い実力派の役者さんです。
渡辺大輔くん(ジム役)&小南満佑子さん(ケイト役)
渡辺くんはどちらかというとジムのキャラクターじゃないかなぁと最初は思ったんですが(どちらかというと威厳のある激しいキャラを演じることが多いので)、意外にもハマっていましたね。これまで見てきたジムというキャラの中では一番屈強なイメージで新しい感じでしたがw、あのくらいの逞しさがなければ、最後に船の漕ぎ手となれないよねっていう説得力もありました。
小南さんのケイトは溌剌としていてグイグイと迫る肉食系女子な印象w。歴代のケイトもキャラとしてガンガン積極的に行くタイプでしたが、小南さんはさらに自分の意見をハキハキしっかりと主張する気の強いしっかり者といった印象でした。それに、可愛かった。
相葉裕樹くん(チャールズ役)&菊地美香さん(キャロライン役)
前回の佐藤くん&未来さんのコンビよりもグッと若返った印象のチャールズとキャロライン。なので、若さゆえに親の反対を振り切って駆け落ちしてきたというエピソードがよりリアルに感じられた気がします。
相葉くんは若々しく凛々しいイケメンっぷりが本当に眩しかった!!これまではちょっと線が細いかなぁと思ってしまうこともあったんですが、今回はキャロラインへの想いと自分のプライドとの間で葛藤する若者を熱演していてしっかりとした存在感を発揮していました。
菊地さんはどちらかというとケイトのキャラの方が近い気がしたのですが(ちなみに前回公演では2番目のケイトを演じてましたし)、上流階級のキャロラインもかなりハマってましたね。ちょっとお転婆なお嬢様っていう、少女マンガに出てくるようなキャラだったのも良かったですw。
栗原英雄さん(エドガー役)&霧矢大夢さん(アリス役)
栗原さんは前回からの続投で、奥さんのアリス役が新しく霧矢さんに変わりました。奥さんが変わると夫婦の雰囲気もだいぶ違うもんだなぁと思いましたね。前回は完全にグイグイいくアリスにエドガーが押されているイメージがありましたけど(ちなみにそれまでの公演でもそういう路線でした)、今回はエドガーも負けじと応戦している感じでとても刺激的なカップルになっていました。
栗原さんのエドガーは今回は本当に攻めの姿勢が感じられましたね。今の生活に満足をしてくれない妻に対するモヤモヤ感と、それでもやっぱり彼女を愛する気持ちを止められない愛妻家な想いとが常に葛藤しているようなお芝居がとても魅力的でした。アリスに対して一喝する場面はちょっとドキリとさせられたなぁ。彼の中にある「なんで理解しようとしてくれないんだ」っていうもどかしさが痛いほど感じられてすごく切なかった。
それでも気まずい雰囲気になったアリスへの愛情は止められなくて強引にダンスに持ち込んで熱いキスを交わすエドガー。この場面がすごく印象的でした。アリスは幸せ者だよ!って思ったもの。そんなエドガーの見せる、最後の笑顔に私は大号泣させられました…。去り際、マイクに乗らない声でアリスへの愛を口にしてたんだよね、栗さん…。ほんと泣けた。
霧矢さんは元宝塚のトップ女優さんだけあって、立ち居振る舞いがとても綺麗でした。言動とかは庶民感丸出しなんだけど、どこか品があってズケズケ言うセリフも心地よく感じられるのがよかったです。一等船客に強いあこがれを持って、忍び込んだ先で積極的にアンドリュースたちを捕まえてダンスするシーンは男前でカッコよかったです。
佐山陽規さん(イシドール役)&安寿ミラさん(アイダ役)
佐山さんと安寿さんも前回公演からの続投組で、安定感抜群だったのですが・・・それ以上に長年連れ添ったからこその二人の深い愛情がさらにレベルアップしていて本当に泣けました(涙)。
佐山さんのイシドールは一等船客にふさわしい品を兼ね備えていて、まさにこれぞイギリス紳士!って感じです。それでいて、妻への愛情を常にありったけ注いでいるのが仕草やセリフからひしひしと伝わってきます。
安寿さんのアイダも上流婦人の鏡のような雰囲気で、イシドールと同じだけのありったけの愛情を向けているのが芝居の端々から伝わります。そんな彼女が船の危機的状況に際して一度だけ激しく夫に逆らう場面があるんです。その激しい口調から、アイダがいかに夫を愛していたかというのが伝わってきて…号泣してしまいました。
ライトーラー役の小野田くんの凛とした歌と芝居、溌剌とした爽やかな印象があった木内くんのハートリー、キラキラした若さが可愛くて魅力的だった百名くんのベルボーイ(エドワード)、ミュージカル初体験とは思えない堂々とした歌とお芝居だった吉田くん、3人ケイトのうちの元気な二人を演じた屋比久さんと豊原さん、控えめながらもいい仕事をしていた須藤さん。
吉田くんはどこかで聞いたことがある名前だと思ったら…松下優也くん率いるX4のメンバーKODAIくんだったんですね!今後もミュージカルで観てみたい熱演っぷりでした。
あと個人的には、夏に同じく大泣きさせられた『宝塚BOYS』に出演してたチームSEAの藤岡くん、木内くん、百名くんが揃って出演していたことが嬉しかったです。
参考 『宝塚BOYS』の観劇感想
みんな本当に素晴らしい熱演と歌だった!!彼らあってこその『タイタニック』だと思いました。
後述
もう私、この1分半の動画見ただけでも涙が出てきてしまうんですよねぇ…(泣)。本当に心の琴線に触れるドラマの連続で、個人的に一生大切にしたいと思える作品です。
決して楽しいハッピーな物語ではなく、どちらかというと切なくて悲しいといった感情の方が大きくなるミュージカルなんですが・・・終わった後の心の充足感はハンパないんですよ。
私は始まってから10秒足らずでもう涙が零れ落ちてしまうんですが(汗)、悲しくて泣いてるっていう感覚じゃなくて。そこに登場している人物の想いにリンクして涙が出るといった感覚かなぁ。
心の底からグワっと湧き出る感情で号泣して、終わった後は目も充血するし鼻も詰まるし頭痛も起こるしで大変なことになるんですが(笑)・・・それでもとても満ち足りた気持ちでいっぱいになるんです。ここまで私の感情を激しく動かす作品はそんなに多くはありません。
一人でも多くの人に観てほしいし、今後も長く上演してほしいと思っています。
関東に住んでいたらもっと回数を観に行っていたんだけどなぁ~・・・。大阪も期間が短くリピートできないので、次の観劇は大千穐楽のみとなりました。3年前の楽も爆涙しましたが、今回もそれ以上になるような予感…(汗)。
大阪で、待ってます!!
10/2の終演後にはトークショーが開催されました。めちゃめちゃ面白かったので次の記事で紹介します。