ミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』2022.11.17マチネ

キャスト別感想

青年ルードヴィヒ:中村倫也くん

変幻自在に様々な役柄を演じ分け見る者の心を魅了し続ける倫也くん。約10年前にミュージカル『RENT』で倫也くんのロジャーを見て衝撃を受けた時から、彼には激しい感情の揺さぶりを見せるキャラクターがものすごくハマると思っていました(その時も含めた彼の舞台感想一覧はこちら)。今回の青年ルードヴィヒ役は最高傑作だったと思います。一番見てみたかった彼の姿がそこにはあって、それは私の想像をはるかに超えるところに行っていた。まだ全国的に名前が浸透していない時期からその演技力に魅了されてきたけれど(初めて主演舞台を務めた「ヒストリーボーイズ」で大きな評価を受けた時は本当に嬉しかった)、改めて倫也くんは最高の役者であり「演劇の申し子」と呼ぶにふさわしい人だなと思いました。

青年ルードヴィヒの心の動きがもう本当に手に取るように伝わってくる。耳に異変を感じるまでの芝居は自信に満ち溢れたギラギラした眼差しをしていたし、はたまた難聴に見舞われて追い詰められていく過程では蛇に睨まれた小動物のような怯えた目をしていた。あれだけ繊細に目で感情を語れる役者さんはそう多くいない。
自分の中に音楽のアイディアが溢れるほどあるのに、抗いようのない耳の不調に見舞われてそれを表現できなくなった時の絶望感。どこにも逃げ場がなくて怒りのぶつけどころも分からないといった混乱状態の芝居はあまりにもリアルで壮絶で…見ているこちらにもこれでもかというほど伝わってきて本当に苦しくなってしまった。そこに居たのは”中村倫也くん”ではなく、間違いなく”ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン”だった。

苦しみにもがき、悶え、慟哭し、彼自身が破裂してしまうのではないかと思ってしまうほどの感情の揺れ動き。こんな倫也くんの芝居をずっと生で見たいと思っていた。あまりの激しさに声が掠れ気味になってしまうことも多々あったけど、それがかえってルードヴィヒの心情とリンクしているようでますます心に刺さってくる。それでいて歌う時にはしっかりとした声が出ていて、そのテクニックの高さもすごいなと思いました。

中村倫也くん、静けさと激しさとを変幻自在に操れる本当に凄い役者です。

マリー:木下晴香さん

晴香ちゃんはミュージカル女優さんという印象のほうが強いですが、お芝居がものすごくシッカリしていて素晴らしかったです。美しく凛とした歌声の中には、相手役に訴える言葉の力がこれでもかというほど込められている。語る力がとても強いのです。まだ20代前半だというのが信じられない大人っぽさには本当に驚かされます。

ルードヴィヒは自分自身への苛立ちをたびたびマリーにぶつけてしまいますが、彼女は真っ向からそれを受け止め諭し導くといったシーンがとても多かった。そこから、マリーが本当にルードヴィヒという音楽家を尊敬し慕っていたのだなということが伝わってくる。ルードヴィヒも心のどこかでそう思っていたからこそ最後に彼女へ手紙を書いた。そう感じるほどの説得力が晴香ちゃんのお芝居からすごく感じられました。

もう一人のルードヴィヒ/青年:福士誠治くん

この作品の中で一番難しい演技を要求されていたのは福士くんだったかもしれません。彼は壮年のルードヴィヒのほかにも貴族や青年カールも演じていて…しかも、シーンごとに役を切り替えるといった非常に難易度の高い芝居を要求されていたと思います。
それを、見事にやってのけた福士くん…すごい、すごすぎた!!ある瞬間は壮年のルードヴィヒを演じていながら、次の瞬間にはその父親の役を演じていたり・・・、はたまた貴族になったり。それぞれにちゃんとキャラクターを瞬時に演じ分けていて見ていて混同することが一度もなかった。これは本当に驚くべきこと。

一番印象深かったのは青年カール役。ルードヴィヒからの一方的な音楽教育によって精神的に追い詰められ混乱し慟哭する姿はあまりにも痛々しく、見ているこちらも胸締め付けられる想いになってしまった。なんとかしてその呪縛から逃れようともがいてもがいて、最後の最後にルードヴィヒの元を飛びだしピストルを自らの頭に突きつけるシーンはあまりにも衝撃的だった。
そこから最後に向けてはまた壮年ルードヴィヒとなり、青年ルードヴィヒの魂と迎合していくような芝居を魅せてくれて…その光景があまりにも美しく涙させられてしまった。

ちなみに、福士くんは倫也くんが『RENT』に出演する前の公演の時にマーク役として出演してたんですよね。二人が並んで歌うシーンでは密かに新旧RENTコンビ(福士くんはマーク、倫也くんはロジャー)だ~と一人眼福に浸っておりましたw。

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後述(終演後トークレポも少し)

ラストシーンは静かで穏やかな雰囲気ではありましたが、2時間通して殆どの時間を狂気と慟哭の芝居で圧倒した倫也くんをはじめとするキャストの皆さん。でも、カテコの時はみんな充実したような、少し嬉しそうな笑顔を浮かべた表情になっていて…改めて役者ってすごいなと思ってしまった。特に倫也くんはさっきまでの壮絶で激しい人物を演じていたとは思えないほどのケロッとした笑みを浮かべていて、ヴァイオリンとチェロのお二人が前に出てくるときは演出で大量に降ってきた花びらを少し払って道を作ってあげるような仕草を見せるほどの余裕があった。このギャップが堪らないんだよねぇ、彼はw。

全てが終わった後、有料のトークショーが行われました。トーク開始直前にスタッフさんが列ごとにカードを持っているか目視して確認。だいたい7割くらいの人が残っていたかな。

有料だったので、どこまで書いていいのか分かりませんが(汗)軽くメモした内容をちょこっと書いてみたいと思います。

出演は、演出の河原雅彦さんと、幼いルードヴィヒ他をWキャストで演じている高橋遼大くん大廣アンナちゃん(私が見た回は大廣アンナちゃんでした)。

河原さんが最初は二人を翻弄するような余裕を見せていたのですが、途中から子役さんたちの自由さに動揺してオロオロしちゃうこともww。
特に高畑くんとほぼ同じ質問内容をアンナちゃんが堂々と投げかけた時は「ちょっと待ってくれよぉ~~」と椅子からずり落ちそうになってて面白かったww。「本当は舞台の余韻に浸ったまま帰ってほしいのに、こんな笑わせちゃっていいのだろうか」といった本音も飛びだしたりで、非常に楽しい時間となりました。あと、たびたび「これで200円分のトークになっる??」と河原さんが気にしまくってたのも笑えた。十分値段以上のトーク見せていただいてましたよ!

1.好きなシーンは?

あえて言うならラストシーン。韓国オリジナル版では晩年のルードヴィヒ一人だけが天に召される演出になっているそうですが、日本では少年、青年、晩年の3世代のルードヴィヒが召される演出に変えたのだそうです。

あと、ピアニストがルードヴィヒに追い払われるシーンでの小暮くんの身のこなし方も好きって語られてましたw。

2.ベートーヴェンとの共通点は?

1つもなし(逆にあんな人いたら大変でしょうとww)。

3.中村倫也くんについて

倫也くんと河原さんはそこそこ長い付き合いになるということですが(八犬伝の頃かな)、よく会っていてそのなかで「次はどんな作品をやろうか」と話し合っているのだそう。彼が有名になる前は(「みんなの倫也になる前」って表現が笑えたww)、早く有名になってほしいと常々思っていたと。こんなに凄い芝居をする良い役者なのだから、売れさえすればもっと世界が広がると常々感じていたそうで・・・これは私が思っていたこととほぼ同じだったので河原さんがそれを語られたことがなんだかとても嬉しかった。
そうしたら、朝ドラに出たことで人気に火がついて予想した以上に「売れすぎちゃった」とw。今回の作品を選んだのは、河原さんが「中村倫也はこれだけのことをやれる役者なんだ」ということを広く知らしめたかったという理由が大きいそうです。私が今一番みたい倫也くんを存分に見せてもらえた背景には、そんな想いがあったからこそだったんだなと思ったら胸が熱くなりました。河原さん、ありがとうって思った。

(このトークの時に子役さん二人がちょっと退屈そうな表情をしたように河原さんには見えたようでw、盆を回して二人の気持ちをあげようとしてたのは面白かったw)。

ただ、「ルードヴィヒ」はちょっとハードルが高い作品で倫也くんたちに非常に過酷な状況で芝居することを求めることになってしまったので申し訳ないことをしたとも語っていらっしゃいましたねw。稽古場からずっとあの本番のようなテンションで演じ続けているそうで…いやぁ、役者って壮絶な仕事なんだなとも思いました。

倫也くんの人気に火が付いたことで、今まで演劇に興味のないお客さんも舞台に足を運んでくれるようになったのは喜ばしいことだと。それをきっかけに色んな演劇を見てほしいと河原さん熱く語られてました。

4.「ルードヴィヒ」で演じてみたい役は?

小暮くんが演じたピアニスト(ラスト美味しい場面があるからw)。

5.劇中で好きな衣装は?

今回は全体的にみんな地味だけど、一番豪華な服を着てるのは子役さんだよと(笑)。晴香ちゃんの衣装は可愛くて好きとも語っていらっしゃったかな。

最後は「ルードヴィヒ」のクライマックスでのピアノの上のシーンを子役さんが再現してそれを河原さんが微笑ましく見守るといったところでお開きに(あんまりやりすぎると倫也に怒られるぞというツッコミもw)。
河原さんが子役さんと一緒に舞台を作るのは今回が初めてだったそうで(意外!)自分がどう思われているのかずっと気になっていたそう。でも「大丈夫でした」という言葉を聞いてほっと胸をなでおろすといった一幕がw。途中から大人と同じ接し方をしたそうで、それが正解だったのか心配だったようです。

そのほかにも楽しいトークがたくさんありましたが、今回のレポはこんなところで。15分予定だったのが倍くらいの時間まで伸びて値段以上の内容のトークショーだったと思います。楽しい時間をありがとうございました。

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